
【Western Electric社製300B】
毎年この季節になると思い出すことがある。小学生の頃だったか、御近所に商店を営む方がいらっしゃって、その息子さん(結構いいお年だった)が私を結構可愛がってくれていた。ある日、その方からゲルマニウムダイオードとトランジスタを戴いたことがある。当時、トランジスタと言えば高嶺の花というか、まだそれが何か分かりもしない年齢だったこともあって、「これは何ですか?」とダイオードについて聞いたところ、それでラジオが聴けるんだよと教えてくれた。
ダイオードは確か”1N34”、そしてトランジスタは東京通信工業社製の”2T12”だったと記憶している。東京通信工業と言えば、現在のSONYであることは多くの方々が御存知かと思う。それらのデバイスは勿論使い古しの物ではあったが、小学生の私にとっては一種の「お宝」のような存在だった。フェライト・バーにエナメル線を巻いてバリコンと共に板の上にセットしてもらい、そこにダイオードを接続して、クリスタルイヤホンを繋ぎ、大きなバリコンを廻すと微かにラジオ放送が聞こえてきたのを今でも覚えている。当時は電池も何も無い状態で何故ラジオが聞こえるのか不思議で仕方が無かった。
その商店を営む方の裏庭には高いポール(今から思えば竹竿?)が約20mの距離をおいて2本立っており、その内の1本に鯉のぼりが取り付けられていた。しかし、そのポールは鯉のぼりを取り付けるためにあるのでは無く、アンテナだった。その方の御自宅の縁側廊下の突き当たりには机が置かれ、そこには銀色に輝くアルミのパネルに把手がついた通信機器と思われる物が整然と並んでいた。そして、机の片隅に”JA2○○(○○はアルファベット)”と書かれたプレートや私の頭くらいの大きさがある真空管が飾ってあったのを記憶している。
後になって、その方は後継者としてお店を拡張移転することになり、もう不要なのでということで「9R-59」という春日無線{TRIO}製(現在のケンウッド社)の受信機を貰った。暫くはラジオ代わりに使っていたが、当時の私にはまだその価値観も何も分らなかった。しかし、内部で光り輝く真空管には大いに興味を持った。そうこうしている内に中学生になり、色気も出てきた頃、友人がアマチュア無線の免許を取るということでその話に乗って一緒に受けにいった。合格はしたものの、どうしていいのかも分らず、そのまま暫くは放置。
高校生になった頃、やっとその価値が分ってきて、中古の807、6JS6や6146B等の球を使ってあれこれ送信機を製作したり、かき集めた古い球(ST管やGT管)や部品で高一中二(高周波1段増幅及び中間周波2段増幅回路)の受信機を製作したりしたが、IFTやコイルパック等を新たに買うにはやはりお金が必要なので、ある意味諦めて、上級免許だけにチャレンジし、何とか合格を果たした。そんな頃、友人が学校に持ってきて読んでいたのが「ラジオの製作」、「初歩のラジオ」、「無線と実験」という今から思えば相当マニアックな月刊誌だった。お昼休みに見せてもらったが、その内容は「初歩」どころか、大変難しい・・というのが第一印象だった。それでも見様見まねでアルミのシャーシを買ってきてはシャーシー・パンチやハンドドリルで穴開けをし、廃物屋さんで貰ってきたテレビに使われている電源トランスを使ってあれこれ工作した。お陰でハンダ付けだけは人一倍上手くなったのかもしれない。
そうこうしているうちに、興味もあって工学部へ進み、そして某企業へ就職。そんな中、真空管の魅力に取り憑かれて幾つかオーディオアンプ(パワーアンプ)やセラミックチューブの高周波リニアを作ってきたが、高周波は諦め、オーディオだけに特化したその趣味は今でも続いている。しかし、誰でもそうかもしれないが仕事が多忙ということもあり、落ち着いてそれに集中することは出来ないでいるが、それでも日々コツコツと部品集めに終始している。
最近になって製造が再開されたWestern Electric社製の「WE300B」をPPとしてA級動作させるアンプを造ろうと企んでいる。以前はペアチューブの存在は皆無だったが、同社がAlabama州のHuntsvilleに製造工場を移転し、新たにペアチューブの製造販売を開始したことはお好きな方々であれば御存知かもしれない。ただ、お値段も結構するのでおいそれと購入することは出来ないが、やはり本物を使いたい。最近はロシアや中国製の真空管が数多く出回っているが、品質という面では本物には到底かなわないと主観的ではあるけれど、経験からそう考えている。
以前、この300Bをシングルで動作させたアンプを製作したことがあるが、そのバイアス電圧調整に苦労した経験がある。また前段増幅回路もすべて三極管を採用し、B電源回路には整流管(WE422A)を使用した。それらに加えて配線素材にはOFC(Oxygen - Free Copper)を採用し、ちょっとだけマニアックな物としたが音質は個人的に納得出来るものでは無く、やはりトランス結合回路としなければならないようだと反省。因にこの時のOutput-transformerのimpedanceは3.5kΩに設定し、タムラ製作所のトランスを採用した。それはもう私の手元には無く、友人宅でALTEC LANSINGのA5を堂々と駆動している。
今後は仕事(本業)の合間をぬって、製作場面を写真などで御紹介していきたいと思う。本業はサービス業なのに、個人的な趣味としては「ひとり製造業(製品を販売しているわけではありません)」かもしれないが、このギャップがあるから面白いのかもしれない。しかし、各種検査測定機器を定期的に校正に出してしている訳では無く、デジボルで簡易校正するのみ。oscilloscopeやtube-tester(真空管試験器:AVO社CT-160)も年代物となってしまっているので、一度大掛かりな改修整備を行う必要があるが、各種のパーツが入手困難な状況にあり、困り果てているのが現状なんです。
【参考】
基礎から知りたいという方向けのサイト
・私のアンプ設計マニュアル
http://home.highway.ne.jp/teddy/tubes/tips/tips0.htm
・回路図を作成するときに使用しているのが、下記のサイトで無料配布されている回路図エディタ。
http://www.kitanosawa.com/hp_hd_html/hd_menu.html
これはなかなか使える。ただし、回路上の設定数値を計算してくれるわけでは無いので、関数電卓叉はパソコン・ソフト等を使って解決する必要がある。なお、一部の回路設計については便利なツールが下記のサイトで案内されているので、参考にされると良いかもしれない。
・回路屋さんのホームページ
http://www.michinoku.ne.jp/~tsasaki8/
・xfig
http://homepage3.nifty.com/tsato/xfig/index.html
・ Simple Electronics Library
http://www.geocities.com/eqys/simple/simple.html
・その他、SPICE関連
http://eportal.apexmicrotech.com/mainsite/design/pages/design_software.asp
http://www.polyfet.com/files.htm
http://www.analog.com/intl/japan/designCenter/index.html
・高周波関連
http://www1.sphere.ne.jp/i-lab/ilab/index.htm
・球のピン配列検索及び各種データの閲覧が可能なデータベースソフト
http://www.duncanamps.com/tdslpe/